林浩平の《饒舌三昧》

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help リーダーに追加 RSS 講演「岡本太郎と花田清輝」+吉増剛造論脱稿

<<   作成日時 : 2007/05/20 02:14   >>

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 茨(いばら)咲いて こんなさみしい 真昼がある   (三橋 鷹女)

 茨とは棘のある野薔薇のこと。野趣のある白い五弁の花を初夏に咲かせます。鷹女のことが気になって、図書館に行った折、立風書房の全集を久しぶりに開いているとこの句を見つけました。明治32年生れの女性俳人ですが、鷹女の句からはどこやらハイデッガー流の!現存在の不安に晒される詩人の「語り」Redeの声が聴こえてきそうです。それほどに厳しい自己省察と存在凝視がうかがえます。大岡信氏は鷹女に「非人称の“妖”」を見る、と言いますが、たとえばこんな句「うつうつと一個のれもん姙(みごも)れり」などは確かにそれを示すでしょう。決して男性俳人には詠めない境地です。

 今日は、世田谷美術館で開催中の「世田谷時代の岡本太郎」展の記念イベントである講演会が開かれるので、雨のあがった用賀駅から砧公園に向かいます。オープニングにもお招き頂いて参上した次第は、以前にここにも書きましたが、展示資料をもう一度観ておく必要もありました。徳島大学の鳥羽耕史氏による講演「岡本太郎と花田清輝」、一般の観客のかたへの啓蒙的解説も顧慮された丁寧なもの。PCに取り込んだ画像を駆使しての美術展講演らしいプレゼンテーションでした。講演終了後に鳥羽さんにご挨拶。鳥羽さんの先生だった高橋世織さんに紹介いただいて以来のご無沙汰でした。鳥羽さんのズバリのご専門は安部公房。戦後アヴァンギャルド芸術運動を研究対象とする若い世代が着実に生れています。

 講演終了後の若いひとりの聴衆からの質問に、「お話に出たなかで埴谷雄高や安部公房の著書は本屋で手に取れるけれど、花田清輝のはいまほとんど消えているようだがそれはどうしてですか」というのがありました。ま、素朴な疑問というところでしょう。鳥羽さんは、「花田の文体の、屈折した論理性や難解なレトリックをいまの読者が敬遠しているのかもしれないが、でももっと読まれるべきものだし、きっと残るものです」と模範回答をされてましたが、同感ですね。岡本太郎との出遭いというのも、花田の『錯乱の論理』を太郎が読んで感動して、というところからでした。花田特有のペダンティックで、アイロニカルな文体こそが魅力のはずが、今の世代はこれを噛み砕くための頑丈な顎を失くしてしまったようですね。蛇足をひとつ。先日ちょうど小野十三郎について話す機会があったのですが、小野の「詩論」という名アフォリズム集、あれは戦時中に花田が編集長だった「文化組織」に連載したもの。小野のコスモポリタン的な知性を花田は高く評価してましたね。花田や岡本の「夜の会」に対して後年小野は大阪に「大阪文学学校」を開設します。いや、当時の気鋭の文学者らはみんな腕っこきの名オルガナイザーでもありました。

 会場では思いがけないかたがたに何人もお会いしました。『砂のペルソナ』という花田論を講談社から出版したのは、しかしもう20数年前でしたか。文芸批評家のスガ秀実さんの姿が会場にあったのは意外でした。今回の岡本展を企画された学芸員のSさんもスガさんとは旧知のよし。Sさんには、「僕はスガさんの花田論の出版パーティーにも出たのですよ」と自慢?しておきます。なんだか演歌のカラオケパーティーのような記念会でしたが(笑)。スガさん、なんでも岡本論を準備中とか。それから講演会が始まって少し遅れて、NHKのディレクターでBS句会の仲間のI さんが入って来られたのにもビックリです。そうか、Iさん、北大時代の世織先生のお弟子で鳥羽さんとは同窓生でしたか。さらにはテレビ番組の制作会社グループ現代のKさんともバッタリで、お互いに「おやおや」。思わず、「何か番組の取材でも?」と尋ねていますが、そうではなく、Kさん、有志たちと安部公房研究会を続けていて、その関係だそうです。「安部や花田のことをNHKで番組に出来ませんかね」と言われますが、当今のNHK,そうした純粋教養番組をオンエアできる放送枠がありません。他にも東京都現代美術館のSさん、Fさんらにもお目にかかりますが、こちらはまあここでお会いできるのも当然?といえば当然でしょうか。しかし、学芸員のかたが他の美術館の企画イベントに関心を持ってわざわざ足を運ぶというのは、出来そうでなかなか出来ませんよ。

 さてここで、ひとつご報告。吉増剛造さんの詩業について、『裸形の言ノ葉――吉増剛造を読む』という題で一冊を出すというのは昨年来の懸案でしたが、書き下ろしパートをやっと金曜に脱稿いたしました。『ごろごろ』に代表される近年の吉増さんの詩の世界、初めのうちはただ詩集を撫でながら眺めているだけ(笑)という接し方でしたが、しかし不思議と強く惹きつけられます。その詩的磁力の秘密とは何かを探ろうとしたのが拙稿です。書き下ろしパートは210枚ほど。脱稿ぶんをPOして読み直すと、なにやらノーベル文学賞の推薦下読み係り?がヨシマスの業績の分析レポートを選考会のために書いて、「強く推薦します」と結論した、みたい(笑)ですが、さあどこまで選考委員らに具眼の士はいるでしょうか。ともあれ、詳しくは追ってPRいたしますので、どうぞヨロシク。

 今日の引用句、この頃は絶版が多くなったという花田で行きましょう。最近の若い世代は、この名フレーズすら知らなくなっているのでしょうか。

「すでに魂は関係それ自身になり、肉体は物それ自身になり、心臓は犬にくれてやった私ではないか。」
                           (花田 清輝 『復興期の精神』)

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