林浩平の《饒舌三昧》

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zoom RSS 吉増さん、Nadiffでライヴ+武満徹さん、ヴェンダース写真、ブローティガンのこと+大岡信さん追悼

<<   作成日時 : 2017/04/06 23:43   >>

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 うつつなき 現(うつ)つ心や 昼桜      (高橋 睦郎)

 春爛漫の気分を詠んだ句ですね。あたたかい春の日差しを浴びる満開の桜を眺めていると、現実感がなくなる、というわけです。睦郎さん、「季節になると、桜の句に挑戦したくなる」けれども、なかなか納得のゆく作は出来づらく、この句が「なんとか採れる範囲か」と述べていますが、これは佳句ですよ。

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 ご覧ください、わが家の近所の桜の老樹もやっと満開を迎えました。今年は三月が低温続きでしたから、開花も遅くなりましたが、いよいよ「春が来た」です。

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 4月2日(日)でした、恵比寿の美術専門書店Nadiffナディッフで、吉増剛造さんと奥様のマリリアMARYLYAさんが出演したライヴイベントがありました。名付けて、「剛造Organic Fukubukuro Orchestra」、開けてみないと何が入っているかわからない福袋みたいに、何が登場するか、どうなるのか、幕開けしないとわからないステージショー、という寓意とか。店内の平台を片付けて空間を作り、座席を用意します。

最初はマリリアさんのステージ。現在コンビを組んでいるギタリストのジャンニさんはフランスにいますから、この日は東京在住のギタリストが参加。さらには鈴木余位さんがカメラを構えて背後のスクリーンにライヴ映像を提供します。マリリアさんのヴォイスと余位さんの映像のコラボはもう何度も体験しましたが、素敵なアンサンブルです、今回も吉増さんのgozoCine「エッフェル塔」などの動画を素材にしてのスクリーンの映像が外の夕闇ともマッチして?良い雰囲気でした。
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ちなみに、この画像は、Nadiffのスタッフの鈴木綾子さんが撮影されたのを拝借しています。©Nadiffです。

さて、第二部が吉増さんのステージ。吉増さん、マリリアさんらのステージにおおいに感銘を受けられたようで、のっけからハイテンションです。『怪物君』を朗読されますが、おやおや、マイクをずっと上に高くかかげて、顔をうんと反らせて、なにやら舞踏、という風情。

 その吉増さんを余位さんのヴィデオカメラが撮って、スクリーンに映し出します。

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 吉増さんの朗読の際の身体所作を、故大野一雄さんの舞踏の身ぶりに通じるものがあるのでは、と僕は以前から思っていますが、いかがでしょうか。この日は、ステージの始まる前に、編集者の志賀信夫さんが現在企画している吉増さんの舞踏関係の書物の簡単な打合せがあったため、吉増さんも舞踏を意識されたのでしょう。(この本の企画は僕もお手伝いしています。大野さんや土方巽や笠井叡さんらをめぐる一冊です、ご期待ください。)

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 そして最後は、マリリアさんを再度ステージに呼びこんで、「河の女神の声が静かにひびいて来た」と吉増さんが名フレーズを朗読してそれにマリリアのヴォイスが被さる、というデュエットでエンディングでした。素晴らしいステージ、美術書に囲まれたNadiffのアットホームな空間が良かったのでしょうね。このFukubukuroイベント、6月と8月にもやりましょう、とのこと、ぜひ皆さん、いらしてください。
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 さてもうひとつの話題です。先日、書斎の本棚を探っていたら、洋書の一冊が出て来て、そのなかにこの紙焼き写真が挟まれていました。
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 貴重なスナップですよ、右から順に、映画監督のヴィム・ヴェンダース、フランス映画社の副社長だった川喜多和子さん、そして武満徹さん、一番左が、ここのお店です、六本木の星条旗通りにあったバー、ザ・クレードルのママの椎名たか子さんです。武満さんと川喜多和子さんはすでに故人ですから、これはもう30年近い昔のスナップでしょう。

 そうそう、これが撮られた日の少し前のことでしょう、武満さんとヴェンダースが新宿ゴールデン街のバー・ジュテで偶然出会い、初対面の挨拶を交わしたその現場に、僕も友人ら(確か小崎哲哉さんもいました)と居合わせた、というエピソードは、昨年の「現代詩手帖」誌での吉増剛造さんとの往復書簡で綴っています。

 この写真とほかにも何枚か、それらを挟んであったのが、リチャード・ブローティガンの『JUNE 30th、JUNE 30th』という詩集の原書ですね。日本では、福間健二さんの訳で、『東京日記』という題で出版されています。では、その原書とほかの写真もご覧ください。

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 本と写真は、椎名たか子さんが僕に贈ってくださったものです。僕がブローティガンのファンだと申し上げたからでしょう。船に乗る男女が、ブローティガンとたか子さん、場所は伊豆の網代だとたか子さんからうかがった記憶があります。舟釣りに出かけたときのスナップだとか。またイングランドの牧場でのショットは、劇作家のアーノルド・ウェスカーとの2Sです。英語が堪能で、演劇関係にも人脈のあったたか子さん、ウェスカーの奥さんのダスティさんの料理本『友だち料理自由自在』を翻訳して、晶文社から刊行しています。僕にも献辞を添えてくださいました。

 椎名たか子さん、たいそう行動的で、世界中をよく旅して、いろんなところから絵葉書を送ってくださいましたが(もうひとり、友人の細川周平君も南米やらヨーロッパやらほうぼうから絵葉書をくれましたが)、80歳を越えられたいまは、信州小諸の浅間山の麓の、作家の故水上勉さんの家の隣に建てられたお宅で過ごしているそうです。年賀状のやりとりも、ここ数年は絶えてしまいましたね。(そうそう、新宿の文壇バー「風花」に最初に連れていってくださったのも、たか子さんでした。「風花」、僕はいまも時々通ってますよ。)

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 ブローティガンの『JUNE 30th(…)』のなかの詩篇「Chainsaw」と「Meiji Comedians」の頁を接写しました。ここに登場するのが、たか子さんですね。後者では、ふたりでお酒を飲んで泥酔して、明治神宮のなかに夜中に忍び込んだ、という実話!が語られています。(「明治の喜劇役者のように酔っぱらったよ」とありますね。)そしてその作品の背景について、たか子さんが解説メモを挟んでくださったのです。

 こんな具合に、ブローティガンは東京に来ると、いつもクレードルのカウンターで飲んでいたので、誰もがたか子さんは彼の恋人だと思っていたのですが、ご本人が、「いいえ、リチャードはとても気の合う弟みたいなひとでしたよ。恋人という関係はなかったです」と明言されるのを聞いています。ブローティガン、ご存じのように、アメリカの山中の小屋で、銃で自殺してしまったのですが、たか子さん、「酔ってロシアンルーレットを試したのじゃないかしら」と仰っています。

 そんな椎名たか子さんと僕はいつ知り合ったかといいますと、それは、残念にも昨日4月5日に86歳で亡くなられました詩人の大先輩の大岡信さん、その大岡さんに紹介していただいたのです。あれは、1989年の11月でした、現代詩花椿賞を大岡さんの詩集『故郷の水へのメッセージ』が受賞されて、受賞パーティーの会場でしたね。
「こちらはスーパーレディのたか子さん(笑)」という調子でしたか、確か和服をお召しでしたが、姿かたちが凛然として、「わあ素敵なかただな」でした(笑)。

 さても大岡さん、です。大岡さんについてはいまさら紹介するまでもありませんが、ここ何年かは体調を崩されて、静岡の自宅で療養生活でした。一昨年の秋に世田谷文学館で開かれた大岡信展のオープニングにもご本人はお見えでなく、というのはこのブログでレポートしました。僕ももう十年以上、お目にかかる機会がないままでしたが、昔昔、勤務していたNHKを辞めて大学院で古典和歌を学ぼうとした折に、当時は明治大学教授だった大岡さんに相談して、神保町のカフェでお会いし、「あなたなら、早稲田の藤平春男先生につくのがいいでしょう」と故藤平教授のことを教示いただいたのです。古典歌論の碩学だった藤平先生のことを当時は存じ上げず、そこから早稲田の院を受験することを決めた次第でした。

 そして、あれはもう18,9年昔でしょう、NHKのETV特集で正岡子規の番組をやったとき、僕は案内人役で出演して、それこそ吉増さんや作家の島田雅彦さん、俳人の長谷川櫂さんらに子規についてインタビューしたのですが、大岡さんにも、当時のお住まいの近くの深大寺の蕎麦屋の二階でお話しをうかがいました。セーター姿の大岡さん、無論お元気なころでしたが、ロケの終了後に、せっかくですから一献、いかがですか、という番組プロデューサーの故村重尚さんの勧めで、お酒となって談笑、少し前に大岡さんがパリのコレージュ・ド・フランスに招かれて講演をされたとうかがい、「おや、それはヴァレリーへのご挨拶ですね」と申し上げると、大岡さん、嬉しそうでしたね。ただ、帰りがけに、靴をはこうとされて、よろけられ、酔いのせいでしょうが、「ああ、お歳を召されたな」とも思いました、それを覚えています。

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 では、お別れです、大岡さん追悼として、うんとお若いころの詩を引きましょう。

「湖水の波は寄せてくる
 たえまなく岩の頭を洗いながら
 底に透くきぬの砂には波の模様が……
 それはわたしの中にもある
 悲しみの透明なあり方として」

                             (大岡 信  「うたのように 1」  詩集『記憶と現在』から) 

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