林浩平の《饒舌三昧》

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zoom RSS 白洲次郎・正子の武相荘を訪ねます+美術家の福田尚代さんトークに参加IN町田市民文学館

<<   作成日時 : 2018/03/13 00:18   >>

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 東京の 海ぬらしをり 菜種梅雨      (松本 邦吉)

 菜種梅雨は、三月中旬から四月にかけて菜の花の咲くころに降る長雨をいいます。ちょうどこれからのものでしょうが、幸い今週は気象情報によると佳い陽気が続くようです。作者の松本さんとは、先日の梅見の会もご一緒でした。

僕の勤務する恵泉女学園大学は、多摩市の南野にあります。ガーデニングの授業が必須なので、耕作地を求めて、この里山の地に来たそうです。すぐ南は町田市。しかし、僕はもう20年ほどでしょう、町田の市街を訪ねたことがありませんでした。そこへ、追って報告しますが、僕が追っかけをやってる(笑)美術家の福田尚代さんが、町田市民文学館の企画展に関連してトークをされるという案内をいただいたので、「町田、行こう!」となりました。

 町田市の鶴川には、白洲正子が夫君の次郎や子どもたちと、昔の農家を改造して暮らした屋敷が残ります。現在は、「旧白洲邸 武相荘」として公開されているのです。じゃあせっかくの機会、そこを訪ねることにしました。先週の土曜日、春の日らしいぽかぽかした佳い陽気です。わが家のある仙川からバスで成城学園前まで。そこから小田急線で鶴川駅に向かいます。案外、近いのです。駅からは鶴川街道を北に10分も歩けば、案内が見えてきました。ここをさらに北にゆけば、恵泉のキャンパスも遠くないですね。なんだ、そうかあ。

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 昭和18年に白洲夫妻はここに引っ越してきたのですが、武相荘の名の由来は、武蔵と相模境に位置するのに因んで、さらに「不愛想」ともシャレたそうです。戦時中は、疎開の意味もあったでしょう。農作物が手に入り、爆撃を受ける心配もないのですから。夫妻は最後までここに住み続けました。

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 室内は、残念ながら撮影禁止、しかたありません、画像はネット上で探しましょう。正子の書斎がそのまま残っているのが興味深いです。蔵書がわかります。友人でかつ姻戚関係もあった小林秀雄の本がたくさんあります。そう、折口信夫全集がどーんと並んでいて、目につきました。作家の故車谷長吉さんの『赤目四十八滝心中未遂』や『塩壺の匙』もちゃんとあります。車谷さん、若いころから白洲正子に認めてもらったのを自慢してました(笑)。意外だったのは、赤坂憲雄さんの『異人論序説』でした。

 囲炉裏が切られた座敷には、ふだん使っていたという食器や酒器が並びます。古美術にも正子は見識を持っていました。

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隣にはレストランが併設されています。ここは白洲家の食堂だったのでしょう、木材を使った落ち着いた空間です。コーヒーを一杯注文して、一服。さらに周囲を散策して、武相荘を後にしました。

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鶴川から小田急線でふたつめの駅が町田です。ここには町田市立国際版画美術館があって、一度だけ訪ねたことがありました。それは、ジャック・デリダも論じていたフランスの現代版画家のジェラール・ティテュス=カルメル展を開催した時ですから、1991年でした。うわあ、もう26年も昔でしたっけ。今回は町田市民文学館がお目当てです。土曜の夕方の雑踏を抜けて、歩いてゆくと、すぐにわかりました。

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 各地の文学館のなかでも、このところはブログでもお伝えしたように、富山の高志(こし)の国文学館へは瀧口修造についての講演に招いていただき、また福井のふるさと文学館へは、三好達治展で出展された三好の卒論のヴェルレーヌ論について解説を書いたご縁もあったので昨年秋に訪ねた次第でした。ご近所の世田谷文学館とは、なんとなく木戸ご免、ですし(笑)、横浜の神奈川近文にもしばしばお邪魔しています。今回が初めての町田市民文学館、「ことばらんど」という名称も続きますが、ここでは「本をめぐる美術、美術になった本」展を今月の18日まで開催中。まず展示を見学しましょう。ここは観覧料は無料です。HPの画像を引きましょう。

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上からまず、漱石の著作『四篇』(1910年)と二葉亭四迷の『浮雲』(1908年)です。近代の装幀の始まりですね。装幀家はともに橋口五葉。漱石の単行本が多数展示されていましたが、モダンさにおいて際立っていたのは、津田青楓です。二枚目の画像は、小林秀雄の著作たち。装幀はみんな青山二郎です。青山二郎といえば、先ほど訪ねた白洲正子の師匠?ですが、その正子の著作もズラリと並びます。それが三枚目の画像。

 若林奮さんの作品も出ていました。このブログでも、一昨年に関東のいくつかの美術館で巡回された若林展のことはレポートしましたが、吉増剛造さんとの密接なつながりを始め、若林さんと詩書との関わりは深いです。画像の作品は、「7月の冷却と加熱 ミズキの一葉」です。若林さん、そういえばここ町田のご出身でした。

 さて企画展、恩地孝四郎を軸として、朔太郎の『月に吠える』や室生犀星の『鶴』などの詩集における装幀の実験を紹介したところは結構なのですが、現代詩の詩集の装幀において画期的な仕事を残す菊地信義さんにスポットを当てて頂きたかったですね。吉増剛造さんの詩集『オシリス、石ノ神』のデザインなど大傑作です。(吉増さん、「菊地とは何回もケンかしながら進めたのですよね(笑)」と言われますが。)かく申す僕も、最初の詩集『天使』と二冊目の『光の揺れる庭で』、そして吉増論である『裸形の言ノ葉・吉増剛造を読む』の三冊を菊地さんに装幀をお願いしました。菊地さんの場合は、装幀に強いスタイルがあるのです。書物からアウラが出ています(笑)。

 午後6時になりました。文庫本を素材にした彫刻作品!「佇む人たち」を出展している福田尚代さんのトークが始まりました。福田さんの作品については、このブログで何度も紹介しています。書物や文房具、原稿用紙など、本にまつわるモノを素材に、エッジが明瞭な概念アートを展開してきました。また回文作家でもあります。この日は、ご自身の作品の画像をパワーポイントで映写しながらのトークです。司会役は、企画展の担当学芸員の谷口朋子さん。谷口さんは、ご専門が竹久夢二だそうですので、「文学と美術」のテーマはお手の物でしょう。さあ、まず「佇む人たち」をご覧ください。この画像は、うらわ美術館であった展示の際にお許しを得て僕が撮ったものです。

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文庫本それ自体を材料にして、人体のシェイプに彫刻されています。トークの際に福田さんが映写したのは、最初にこの試みを始めた際の一冊、「たち」ではなく「佇む人」の画像です。次々に自作の画像を写しながらのお話を耳にしつつ、僕のなかで思い浮かんできたのは、いわば福田尚代の世界についての考察、です。こりゃあ福田尚代論が書けるぞ、でした(笑)。では、以前に福田さんの作品集を接写しておいたときの画像をここでご覧にいれましょう。こんな作品があります。

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 本や、鉛筆や消しゴム、原稿用紙、文庫本のカヴァのパラフィン紙?グラシン紙?、栞などが、福田作品の素材です。つまり、「読むこと」「書くこと」に関わったモノを材料にして、それを加工するわけですね。こうした造形作品には、福田さんの幼年期の読書体験が影響しているとのことですが、トークでは、そうした材料を埃とか塵とかのようなものに還元する?、といったお話が印象的でした。それに、「踏み込んでいえば、死の世界にもつながるものかもしれません」とのこと。ふーん、面白いですね。

 僕が考えていたのは、『来るべき書物』や『文学空間』などで、マラルメの書物論を引き継ぎながら、文学=書物の経験を死の経験に重ねてみせたフランスの思想家モーリス・ブランショのことです。それに、埃ということでは、「埃の飼育」という作品もあるマルセル・デュシャンですね。手仕事性という点では、明らかに福田さんはデュシャンを踏まえています。トーク後に、質問タイムがあれば、それをご本人に「意識していますか」と尋ねてみたかったですね。ともあれ、刺激的なトークタイムでした。

 お別れの引用句、回文作家でもある福田さんの回文を引きましょう。おや、この本のタイトルにも「埃」がありました(笑)。

「大天使
 波

 堅い敵意
 波

 みな生きていたか
 みな死んでいた

(たいてんしなみかたいてきいなみ
 みないきていたかみなしんていた)」

                   (福田 尚代     『ひかり埃のきみ』)

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コメント(2件)

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恵泉女学園大学ではガーデニング必修なんですね。さぞや美しいキャパスなのでしょうと調べたら、蓼科に立派なガーデンもお持ちではありませんか!非公開とのことですが、関係者ということで一度訪問させていただく訳にはいかないでしょうか?
熊鷹
2018/03/14 02:08
これは、植物に詳しい熊鷹さんから、「園芸の恵泉」に触れてくださってのコメントとリクエスト、ですね。蓼科ガーデン、そうなのです、立派な植物園のようですが、小生は訪ねたことはないですし、学外のかたを案内できるのは、なにかのイベントに限られるのではないでしょうか。ちょっと尋ねておきましょうか。ただし小生、この3月で特任待遇の専任は定年、4月からは非常勤講師になりますので微力ながら。
ミニヨン
2018/03/14 10:39

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