林浩平の《饒舌三昧》

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zoom RSS 原美術館では小瀬村真美さん「幻画〜像の表皮」展、映像作品がすばらしいです

<<   作成日時 : 2018/06/21 01:56   >>

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 夏至即ち 夏の最も 暗き日ぞ   (高橋 睦郎)

 今年の夏至は、今度の木曜日21日です。夏至は、日の出から日の入りまでの時間が最も長い日、ですが、日本ではちょうど梅雨の季節なのですね。一日中を暗い雨に降りこめられることもしばしば。詩人の睦郎さんが一昨年に刊行した句集『十年』にこの句がありました。「最も暗き日」と詠ったところに、睦郎さんらしい、シニカルなポエジーが読めます。

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 この日も梅雨らしい生憎のお天気でしたが、北品川の原美術館では、現代アーティストの小瀬村(こせむら)真美さんの個展「幻画〜像(イメージ)の表皮」展のオープニングがありました。小瀬村さん、ずっと気になっていたアーティストのひとりです。いつもながらの美術館からのご招待、ありがたく、のこのこ出かけて参りました。

 小瀬村さん、東京芸大の学部と大学院で専攻されたのは油絵だったそうですが、注目されたのは、スルバランなど17世紀の西洋の静物画作品とそっくり同じ構図で果物や器を再現したものをデジカメで撮影し、それらの画像をアニメーション化する、いわば三次元化させる試み。展示解説のなかの文章を引くと、「作家はその過程で、写実絵画の本物らしさと現実との差異=絵画の嘘、虚構性を明らかに」してきた、というわけです。なによりも作品の映像が綺麗なのです。

 今回の展示は、美術館の5つの展示フロアごとにそれぞれコンセプトが設定されています。エントランスのすぐ前のギャラリーTは「はじまりとおわりの部屋」と題されて、作品のモデルになった素材?やきっかけとなったものを展示したとか。全作を見終わって、またのぞいてほしいところだそうです。いくつかのオブジェや、ピサネロの画集が置かれていますが、別のフロアではピサネロの人物画が引用され素材になってますね。(ピサネロは、杉本秀太郎さん偏愛の画家で、僕も彼経由でファンになり、イタリアのヴェローナには二度も鑑賞に行きましたね。「鶉の聖母」は特に好きな作です。)

 今回展示された作品は、どれも自由に撮影しても構わないよし、それはそれは大歓迎です。作家のこうした寛容な姿勢は嬉しいものですね。むろんそこには、作家の自らの作品に対する一種の批評的な距離の取り方も関わるでしょう。

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 この展示フロアを中二階から写すとこうなります。

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 続いては、ギャラリーUです。「西洋絵画の部屋」と題されてますが、15〜17世紀の西洋絵画をベースにした作品が展示されています。

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 では作品「粧」をどうぞ。ジクレープリントとして処理されていますが、花瓶に花を加えてゆく過程を撮影した画像を加工して作成されました。カメラを固定し、20分〜2時間ごとにシャッターを切るように設定、それを何か月間か続ける、というインターバル撮影という手法によるもの、とか。確かに、物質的で触覚的な映像が出現しています。

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 続いては、「氏の肖像」。ピサネロなど西洋絵画の肖像画を素材に、ストップモーションアニメの手法で撮影された動画作品です。肖像の表情が微妙に変化していきますよ。

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 そして大作のジクレープリント「餐」です。83×130センチの大きさ。この作品のために用いられた果物なども小道具がちょうど脇のサンルームにガラスの容器に入れられて展示されていました。腐食が進んで果実のミイラ状態(笑)、これには針金などを使った工作の跡も見せていますね。

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 二階のフロアに上って、ギャラリーVでは「人物の部屋」です。ビデオインスタレーション作品である「episodeV」が上映されています。解説の文章には、「寝息をたてながら眠る女(わたし)の周りで花は枯れ、気づけば壁に染みが生まれ、うっすらと服や椅子も汚れ始める」とあります。

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 お隣のギャラリーWは、「ニューヨークの部屋」というので、作家が2016〜17年にニューヨークで滞在制作をした際の作品が集められました。一連の「Objects−New York」シリーズのジクレープリントも素敵です。

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 作家がニューヨークの街で出会ったオブジェたち。モノ好き(物憑き!)だった(笑)瀧口修造がもしこれを見たら、きっと一目で気に入るに違いありません。そいいえば、フランスの詩人のフランシス・ポンジュに『物の味方』という詩集がありました。

 ここまで鑑賞したところで、アナウンスが入り、作家である小瀬村真美さんの記者会見が始まるそうです。ではまた一階に戻って、会見の様子を取材?しましょう。

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 担当学芸員の坪内さんの紹介で、会見場に登場された小瀬村さん、それこそ可憐なオブジェの化身であるかのような、麗しいお姿、黒のドレスがよくお似合いですね。ご自身の活動や今回の展示について、弁舌さわやかにお話しされます。今回の企画展は、東急グループの代表だった五島昇氏を記念する五島文化財団の助成を受けての海外での研修と制作活動だったよし、いや東急グループも良いメセナをやりました。また原館長もお見えになって、坪内さんの「館長にこの企画やっていいですか、とうかがったところ、「おおいにやりなさい」でした(笑)」という紹介に、ニコニコされていました。

 それから小瀬村さんご本人が先頭になって、ギャラリートークです。各フロアでの作品の前で丁寧な自作解説がありました。こういう開放的な姿勢はおおいに歓迎ですね。

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 さて、最後にひとつまだ鑑賞してなかったのがギャラリーXの「黒い静物画の部屋〜おわりに向かって、動く映像から静止画へ」でした。ここでのビデオインスタレーション「Drop Off」は衝撃的でしたね。テーブルのうえのガラス容器や蝋燭など静物たち。その映像がまず示されます。それにこの空間には、撮影時の再現でしょうか、それらの器たちにDrape、つまり掛け布が掛けられたオブジェも展示されています。

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 またビデオ画像に戻りましょう。タイトルの「Drop Off」、手元の大修館のGenius英和辞典には、「居眠りを始める」は論外としても(笑)、「減る」とか「少なくなる」という意味のほかに、「(ボタンなどが)とれる、落ちる」という意味が載っています。でも、作品に出現する事態に即して言えば、静物たちを載せてある「敷布を引っ張りとってモノたちを落とす」という意味でしょうね。さあフロアで上映されるビデオ画像を僕のデジカメで撮影しました、その連続画像を順にご覧にいれましょう。

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 いかがでしょう、この静謐な暴力、優雅な非理性のパワー、その主題を実に美しい画像で現前させていますね。小瀬村真美さんのエレガントな風狂ぶり、恐るべし、です。大袈裟ではなく、僕はすっかり震撼させられておりました。

 その後、中庭のカフェで始まったワインなどがふるまわれてのレセプションパーティーで、広報担当の松浦彩さんに小瀬村さんを紹介いただき、しばしお話しが出来たのは嬉しかったですね(笑)。この展覧会、この夏を通してやっていて、9月2日まで。どうぞ皆さん、お運びください。夏の東京で、キリリとした清涼感が体験できますよ。

 お別れの引用句、フランシス・ポンジュと行きましょう。この小沢書店のポンジュ詩集、久しぶりに手に取りましたが、そうでした、翻訳をされた阿部良雄先生から頂戴したものでした。

「夜は時おり奇妙な植物を生き返らせる。その発する微光が、家具のある部屋を、いくつもの影の茂みに分解するような植物を。
 この植物の金色の葉は、きわめて黒い柄によって、雪花石膏(アラバスター)の小円柱の凹みに、平然と立っている。」
             (フランシス・ポンジュ 「蝋燭」 『物の味方』より  翻訳・阿部良雄)

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