林浩平の《饒舌三昧》

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zoom RSS 大里俊晴追悼公演には灰野敬二やジム・オルークなど+アートフェア東京が開催中

<<   作成日時 : 2010/04/03 02:01   >>

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 帰らなんいざ 草の庵は春の風     (芥川 龍之介)

 この句には「教師をやめる」という詞書があります。大正8年にそれまで務めた横須賀の海軍機関学校の英語の教官を辞めて筆一本の暮らしに入った時の感慨を詠んだもの。4月は新しい生活がスタートする季節ですから、芥川はこの春風をとても新鮮に感じたのでしょう。実際、それまで住んだ鎌倉から田端の実家に転居します。

 六本木のアヴァンギャルドなライブスペース・SuperDeluxeでは、昨年11月に51歳の若さで亡くなった音楽批評家の大里俊晴さんに捧げるコンサートというので、錚々たるメンツが集合しました。第一部では、大里氏が横浜国大で音楽学を教えた弟子の長門洋平さんという若いひとがアコースティックギター一本でボトルネックを使ってのモダンなブルースギター演奏。なかなか聴かせます。続いては、大里氏の残したギターソロの音源を用いて、それに実弟の大里真宏さんのドラム、さらに大里氏のパートナーだった渡辺未帆さんのピアノが共演してのセッション。ハードでファジーな大里氏のギター、フリーミュージックとしてきちんとスタイルがあるのでは。当方普段はほとんどこの手の音は聴かないのですが、つい引き込まれていました。その後には「間章に捧げる即興演奏」という、やはり大里氏が故郷の新潟で新潟出身の音楽批評家だった間章さんに捧げたソロ演奏の録音が流れます。これは去年の6月のこと。大里氏は自らの業病の診断を得ながらも、手術を先に延ばしてまで実現させた公演だそうです。間章氏とはずいぶん昔、小生も一度だけ松山NHK時代にちらと会ったことがあります。南海放送本町会館であったフリージャズのドラマー・ミルフォード・グレーブスの公演の時。ほんの数秒の挨拶のみ、でした(笑)。浅田彰氏がデビューするまでは「AA」とは間章氏をいいました。ここでもディストーション装置やらイコライザーで歪曲された?エレキギターの爆音が響くのですが、どこか爽快に聴取されました。

 そして第二部。ここでは大里氏と交遊のあったフリーミュージック系の大物が登場。おおいに期待が膨らみます。元ソニック・ユースのメンバーだったジム・オルークと、作家であり「暴力温泉芸者」名の音楽家でもある中原昌也氏の組んだ「Suicidal 10cc」(なんだか物騒なバンド名ですね)、それに日本の前衛音楽演奏家としても長いキャリアを持つ音楽批評家の竹田賢一さん、トリがあの「伝説的な」音楽家・灰野敬二さんというラインナップ。しかし、有態に申し上げて、この第二部が僕にはどうも苦痛の時間、となってしまいました。まあこれは昨年の事故による左の三半規管の損傷がまったく治っていない当方の個人的な事情も関わりますが、音量がデカすぎます(笑)。第一部での大里氏のノイズギターはまだ問題なかったですが、トリの灰野さん、ちょっと参りました(笑)。(電気大正琴の演奏を披露した竹田さんは別にやかましかったわけではありません。それなりに鑑賞しました。)灰野さんのライブは以前に高円寺の「ショーボート」というライブハウスで聴き、その時はロックビートを叩きだすドラムと共演でしたが、その体験は鮮やかでしたよ。大音響のなかに静謐さを感じたくらいで、解放感もありました。そして2004年秋には早稲田の講堂で吉増剛造さんと灰野さんの「神話的な」共演の舞台があって、それに感動した小生、「図書新聞」に舞台評を書いています。そのウチアゲでは灰野さん、それに大里さんもまだまだ元気なころで、華奢な灰野さんの隣に座った大柄な大里さんに「体、倍くらいあるんじゃない(笑)」とジョークを言ったことも憶えています。ところがこの夜は大音響のノイズギターと叫びのようなヴォーカルが「ただ、やかましいだけ」でした。うーん、拷問を受けている、というのが正直な感想。50分ほどの演奏、ちょっと長すぎた、というのは、大勢集まった若い男性中心のお客のなかにも、腕時計をチラチラ見るのが何人もいましたからね。最後に「大里君、ありがとう!」と叫んで舞台を終えた灰野さん、追悼のための熱演だったでしょうが、当方、「あー、やっと終った」と安堵しました。

 全体としては、早世した大里氏を偲んで大勢が集い音楽経験を共有する、という追悼公演の狙いがちゃんと実現された好イベントでしたが、どうも小生ひとりの音楽の「好み」から行くと、やっぱりズレるのですね。フリー系のものには心底陶酔できない、ということがはっきりしました。もっとリズムのメリハリがあって、それにヴォーカルをしっかり聴きたい。「声」の現前が欲しいのです。要するに、ロックしてくれ、ですね、話しは単純(笑)。ですから、イベントが始まる前に、会場に流れた曲のなかで、「あ、このイントロは!」、とわくわくした、オリジナルはNYのパンクロックバンドの「テレヴィジョン」、トム・ヴァーライン率いたあの伝説的バンドの名曲「ザ・ファイアー」をどこかがリメイクして演奏しているのですね、この音源には感銘を受けていました。途中でフェイドアウトされたのが悔やまれます。

 さて、今日は音楽と並んで美術の話題もひとつ。東京国際フォーラムを会場としての現代美術の「市」である「アートフェア東京2010」が2〜4日の日程で開かれています。150?ほどの画廊が出展をした会場、ブースが画廊の数だけあるわけですが、そこにけっこう大勢が詰め掛けています。僕は「ギャラリー香染美術」に出品のアーティストの駒形克哉さんから招待券を頂戴したので、まあ現在のアート状況、どんな感じかなと野次馬精神を発揮して覗いてきました。ふーん、しかし、やはりそこは一般の画廊で作品を観るときとは違って、商品としての美術、という前提で展示がなされていますね。わが家にも、現代作家の美術作品は少しありますが、別にコレクションに情熱を傾けるキャラクターではございません(笑)。どうにも違和感があって、足早に会場を回りました。ただまあいくらか気になる画廊は注意して観てみました。「シュウゴアーツ」、「Taka Ishii」、「小山登美夫ギャラリー」、「YUKARIアートコンテンポラリー」などなど。おや、「ミヅマアートギャラリー」は出展していませんな。うーん、しかし、このブースで見るよりもやはり画廊自体に脚を運んでみないことには美術は体験できませんよ。

 ざっと巡っていて、「あ、欲しいな」という心が動いたのは、「去来」という初めて眼にした画廊が出している古美術です。小さな仏像とか壁画の断片とかですが、表示によれば、ペルシャ?だかの発掘品とか。えー、こんなものを販売してもよいのかな。以前にイタリアに旅した時、フィレンツェ郊外のフィエーゾレの丘の博物館などで観た古代エトルリア人の工芸品、小さな踊る人形などの形態に惹かれて、「欲しいな」と思ったことがありました。しかしこうした発掘品は文化財ですから、商品には出来ないだろうなと諦めた?ことも。この「去来」画廊の出展作、でもかなりのものが売約済みです。お値段を、とちらと見ると、どれもかなりのケタがありますぞ。とても当方などには手が届きません(笑)。現代アートのフェアで、一番繁盛していそうなのが、文化財の?古美術、というのはなんだか皮肉でもありますね。

 引用句、前回は詩人の三好達治のことに触れたので、そのオマケで三好の詩の一節を。詩集『測量船』には珠玉の抒情詩がいくつも収められますが、その後、三好はこんな詩句も残します。なんでも文学者の招待飛行で大阪上空をヘリコプターで飛んだときの作ですが、駄洒落を披露しています。

「難波津を わがふるさとといふといへ
 水の光もうらがなしけれ
 大阪城をひとめぐり
 南東八キロ八尾市外
 エア・ポートへ向ひます
 おひおひ腹もヘリコプター」
                                (三好 達治  「季節風とて」  『百たびののち』)

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 大里俊晴追悼ライブ。久々にミニヨン大兄と会場でお会いしましたね。灰野敬二のソロを観るのは十数年ぶりでしたが……やはりちょっと辛いものがありました。新宿の中古レコード屋や高円寺純情商店街の路上などでお見掛けすることはたまにあるんですが。
 アートフェア東京は追悼ライブの直前にプレビューへ足を運びました。贔屓にしている小西真奈さんの小品を初めて購入。この方の絵は色彩配合が実に秀逸ですね。高階秀爾も「鮮明でありながら現実離れのした幻影の世界が生み出される。絵画の錬金術」と絶賛しています。8万5千円也。決して高くありません。買うなら今のうちでしょうね。ちなみに小西さんの作品はフェアのカタログの冒頭を飾っています。
 
おやくすみん
2010/04/03 09:18
「おやくすみん」さま。コンサート会場では終了後にお眼にかかった次第、「長かった!」の感想はそこでもお伝えしました(笑)。またアートフェアでの小西真奈さん作品GETのこともうかがいました、ま、お気に入り作品に遭遇できたのは僥倖です。
ミニヨン
2010/04/03 09:58

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