林浩平の《饒舌三昧》

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zoom RSS 世田谷文学館では寺山修司展+DVD「ふたりのヌーヴェルヴァーグ」+高見順賞は川上未映子さん

<<   作成日時 : 2013/03/18 00:28   >>

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 山鳩啼(な)く 祈りわれより 母ながき    (寺山 修司)

 寺山は高校時代は俳句少年でした。句作りだけでなく、同世代の仲間と俳誌「牧羊神」を創刊して八面六臂の活躍です。どこかの神社に母親と詣でて、祭神に祈っていると山鳩の鳴き声が聴こえ、目を開けます。隣の母親はまだ手を合わせたまま。見事に演劇的場面を切りとりますね。

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 その寺山修司を世田谷文学館では企画展で取りあげています。題して、「帰ってきた寺山修司」。短歌や演劇、映画など様々なジャンルで活躍した寺山が、47歳で亡くなったのは1983年でした。没後30年、若い世代にもアピールしようという狙いの企画でしょう。近年当時交遊のあった人たち周辺からでしょう、新しい資料なども発掘されたそうで、本展示、高校生時代の書簡や同人文芸誌などを中心に構成されて、創作活動の原点である青春時代の寺山像を探ろうというわけです。

 その高校生時代の俳誌「牧羊神」の同人たちや恩師で国語教師だった中野トクさんというひとへ当てた葉書や手紙がたくさん出ていました。それに寺山の歌人としての才能を見抜いて、「短歌研究」新人賞受賞に導いた中井英夫にも、「兄貴」という調子で長文の手紙を送ってしますね。寺山の文字は、たいへん読み易くて、また書簡の文体もきわめて明晰です。たいていの文学者の手蹟は読み辛くて、展示されても読むのに難儀する場合がほとんどですが、寺山の場合は正反対。実にいきいきした書簡です。寺山のオルガナイザーとしての才能は、こうした手紙の文章にも発揮されたのでしょうね。

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 会場、今日は日曜ということもあり、午後からは寺山の監督作品の映画「さらば箱舟」の上映があるからでしょうが、かなりの観客の数で混んでいました。皆さん熱心に寺山の書いた手紙を読んでいたのが印象的。今月いっぱい3月31日までやっています。

 さて続いては映画の話題です。「ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー」、これが劇場公開されたのは一昨年でしたか、観に行こうと思いながら機会を持てずにいたところ、家人がTSUTAYAでDVDを借りてきてくれました。ヌーヴェルヴァーグを代表するふたりの監督ジャン=リュック・ゴダールとフランソワーズ・トリュフォーを描いたドキュメンタリーで、監督はエマニュエル・ローランというひとが務めますが、脚本を「カイエ・デュ・シネマ」の元編集長の映画批評家で、ゴダールとトリュフォーふたりの伝記を書いているというアントワーヌ・ド・ベックが担当しています。

 そうだ、先日、映画学が専門で、「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」の編集長でもあった映画批評家の梅本洋一さんが、60歳の若さで亡くなったのでした。新聞の訃報欄で知り驚きました。梅本さんとお会いしたのは数えるほどですが、最後に会ったのは、彼が勤めた横浜国大の同僚だった音楽史家の大里俊晴さんがやはり若くして2009年に亡くなり、その追悼集会の席ででした。偶然とはいえ、梅本氏が亡くなって、すぐにこの映画を観たというのもなにかの縁でしょうか。追悼の思いでこの記事を綴ります。
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 ゴダールは1930年、トリュフォーは1932年の生まれです。裕福なスイス人の医師の息子として生れたゴダールと、わけありの家庭環境のなかで映画を観たいがために軽犯罪を犯して投獄された経験もあるというトリュフォー、生い立ちはまるで違いますが、十代のころからいわゆる「映画狂」で、映画批評を書き出していたふたりは、それぞれ「勝手にしやがれ」と「大人は判ってくれない」で映画作家として華々しいデビューを飾り、1950年代に興ったヌーヴェルヴァーグの中心として活躍します。ごく初期には「水の話」という短編映画を共同で作ったりもしました。映画の世界の革命をなしとげようという共通の理念に結ばれたふたりは60年代後半あたりまでは同志です。

 この映画では面白いニュースフィルムなどもたくさん引用されています。体制化した文化大臣のアンドレ・マルローによって、シネマテーク・フランセーズの運営責任者の地位を剥奪されたアンリ・ラングロアの復権のために、ヌーヴェルヴァーグの監督たちがデモ行進している映像も流れます。またカンヌ映画祭粉砕を叫んだりする記録映像もありますが、ふたりは当然その運動に加わっています。しかしどうもこのあたりから、過激に左傾化して「政治映画」のほうへと進むゴダールに、あくまで映画の革新に留まろうとするトリュフォーは違和感を持ち出したのですね。互いを非難しはじめて、ついには決裂、それは1984年のトリュフォーの早すぎる死を迎えるまで続いたようです。

 このドキュメンタリー映画で、いわば三番目の主人公という設定なのが、俳優のジャン=ピエール・レオです。「大人は判ってくれない」に14歳でデビューしたレオですが、トリュフォーの映画では監督自身の分身となるいっぽうで、ゴダールの映画にも出演します。ふたりの監督はレオにとって父親的存在。そんなふたりが決裂したのですから、精神的なダメージは深かったでしょう。しばらく映画に出ない期間が続きました。それが「ゴダールの探偵」で復活、昨年に公開された(見逃しました)カウリスマキの「ル・アーヴルの靴みがき」にも出演したとか。面白いのは、このジャン=ピエール・レオが13歳のときに「大人は判ってくれない」のオーディションを受けている映像が紹介されるシーンでした。そう、それから若いゴダールが当時は巨匠のフリッツ・ラングにインタビューする映像もありましたね。うーん、ゴダール御年83歳となって、きっとさらに新作に挑むことでしょう。

 今日はもうひとつ話題を。この15日(金)は現代詩の第43回の高見順賞の受賞式でした。会場はお馴染み飯田橋のホテル・エドモンド。今回の受賞詩集は、川上未映子さんの『水瓶(みずかめ)』(青土社)です。

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 上の画像は、入沢康夫さんから賞の贈呈を受ける壇上の川上さんです。会場にはまだ小さいお子さんを抱いて、夫君で作家の阿部和重さんも来てられました。この賞を主催する高見順文学振興会が今年から「公益財団法人」という組織になって、その理事長に、第一回の受章者である吉増剛造さんがなられたというので、吉増さんからまずご挨拶。もう43年の歴史と伝統を持つ賞になりましたね。選考経過報告が野村喜和夫さんからあり、蜂飼耳さんと穂村弘さんの祝辞が続いて、乾杯です。発声役が、作家の綿矢りささんだったのは意外でした。

 さて会場では、川上さんにお祝いを述べ、花束贈呈役だった小池昌代さんや佐々木幹郎さんたちとしばしオシャベリが出来たのですが、当夜は同一時間に、大学の卒業謝恩パーティーが開かれています。会場は六本木のリッツカールトン・ホテル。そちらへも顔を出さねば、というのでここは早々に退散しました。会場の賑わいをデジカメでパチリです。

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 お別れの引用句、川上さんのその『水瓶』からとしましょう。選考経過報告にもありましたが、候補作に点数を決めて投票したところ、圧倒的な高得点だったとか。わかる気がします。これはアヴァンギャルドなテクストでもありますよ。不思議に魅力的な作の一節を引いてみます。(私的な報告です。明日から26日まで、郷里の紀州に帰っています。パソコンを接続できないので、コメントを頂戴しても26日までお返しできません。悪しからず。)

「17:09
 夜をむかえる繊細が、ひくく呼吸をしているその裏で、のびてゆく影、濃くなってゆく影、置き去りにしようとする影を見ていた、風が吹けば動けなくなって言葉も去って、わたしたち以外には誰もいない12月は胸も目も指さきも、ここでやわらかな助けを待ってるような気が、嘘だよってそんな気が、わたしだけ勝手にしているけれど、その同じ12月の胸や目や指さきは、ヴァイオリンや深緑の息でいっぱいだったときのことを思いだす、悲しい、と書いてみるときととてもよく似たふるまいで、わたしたち何時間でも話していられたんだった冬は」
                                          (川上 未映子 「冬の扉」  『水瓶』より)

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
多分ミニヨン様のいらした次の日曜日「修司展」に行ってまいりました。その後はじめての蘆花恒春園まで足を伸ばしました。途中にあるソメイヨシノの大木もほぼ満開。それなのにとても寒くて。そう言えば小田急線/下北沢駅が地下になる初日で京王線への乗り換えがゴタゴタしてました・・・。長い工事期間でした。
 修司の声聞きし余韻の花の冷え(あ)
あけみ・る。
2013/03/28 13:02
寺山修司展のあった世田谷文学館から蘆花恒春公園まではゆっくり歩いて10分ほど、界隈は緑の多い住宅地で良い散策コースでもありますね。拙宅は京王線を挟んで文学館とは自転車で15分ほどの距離、ですからこのあたりよくサイクリングします(笑)。ところで、小田急の下北沢駅が地下に?それは知りませんでした。京王線の調布駅が地下になり、それからこちらは大きなニュースでしたが、東横線の渋谷駅が、副都心線と繋がったための地下に行き、と、このところそんな動きのラッシュですね。
ミニヨン
2013/03/28 22:18
失礼しました。出かけたのは23日の土曜日でした!鉄道ファンのかたからご指摘をうけそうですので。それまでは上下線のホームも違っていましたし・・・。
あけみ・る。
2013/03/29 07:42
鉄道関係の大改革実施は、たいていの場合、金曜の夜に行って、土曜から新体制スタート、ですよね。小生、23日は関西にいましたので、東京のニュースに触れなかったため、この話は知らないままだったのでしょう。
ミニヨン
2013/03/29 10:47

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