今福龍太氏の外大退官記念のオペラ・サウダージ、ユニークなイベントでした+笠井叡さん、大野一雄さんとのデュオダンスをリクリエイト!


 春休みの 運動場を 鵜があるく    (加藤 楸邨)

 小学校のグラウンド、春休みなので生徒の姿はありません。そこに近くの沼から飛んできた鵜が一羽、わがもの顔で歩いている、という光景ですね。春風がわたってくるような、どこかのどかなファンタジーを感じさせてくれる一句です。俳誌「寒雷」を主宰して、金子兜太や安東次男など個性の強い弟子を育てた楸邨ですが、こうしたファンタジーふうな作も残しています。

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 新型コロナウイルスが惹き起こしていますこの自粛の大嵐、美術や音楽、スポーツなど文化関連のイベントが軒並み中止や規模縮小、まったく弱ったものです。そんななかで、まずご紹介したふたりの舞踏家の画像、大野一雄さんと笠井叡(あきら)さんですが、笠井さんが舞踏の師であった大野さんとデュオで踊ったダンス作品のリクリエイトにチャレンジしました。その舞台が幕を開ける前日ですが、いわゆるゲネプロ、ドレスリハーサルを関係者の皆さんに交じって鑑賞してきました。その模様を紹介しましょう。

 その前に、こちらは3月20日(金・祝)でしたが、文化人類学者の今福龍太氏が、2005年から勤めた東京外大を定年で退職するに際して、退職記念講義ならぬ記念舞台イベントを催しました。「オペラ・サウダージ」と命名されたこの催し、音楽ありダンスあり芝居あり、の舞台です、と仄聞しました。ほう、どんなものになるのでしょう。東京外大のキャンパスを初めて訪ねました。学内のプロメテウスホールという、色んな設備の整った大ホールが会場ですね。今福氏の教え子たちだけでなく、編集者や大学の教員、クリエイターの皆さんたち、見知ったお顔が何人も集まりました。

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 「オペラ・サウダージ」、このサウダージという言葉、ポルトガル語(スペイン語も同じだそうですが)で「郷愁」を意味する独特のニュアンスを持ったもの、若いころからメキシコや南米で学び、フィールドワークを行なった龍太氏にもこだわるものがあるのでしょう。このイベント、実に入念に準備されたもののようですね、背景にはパワーポイントで画像が映し出されます。副題として「人はいかにして民族学者から吟遊詩人になるか」という文字が投影されました。(すみません、客席から撮ったデジカメ画像、ブレまくっています。どうしたのかな。)龍太氏は、沖縄の楽器で、三味線の原型である三線(さんしん)を習ってきましたが、その三線を爪弾きながら語りを進めます。どうやら自己形成史に触れようというのですね。少年時代に地元の藤沢市の辻堂で近所に住んでいた、在野の能狂言学者だった戸井田道三さんと出会ったことが紹介されます。(戸井田道三の著書、わが家の書架にも『観阿弥と世阿弥』、『狂言ー落魄した神々の変貌』、『忘れの構造』が並びます。)そして文化人類学の師である山口昌男さんや、メキシコの大学で学んだかたなど、「わが師」の紹介です。

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 続いてのコーナーでは、いくつかの大学での教え子であり、かつ演奏家やダンサーとして活動する若いひとたちがゲストとして登場です。ダンサーの中村達哉さんとは、南米?のどこかでコラボレーションを行なったことがある、とか。歌舞音曲、なるほどオペラらしくなってきました。

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 龍太氏は、『レヴィ=ストロース 夜と音楽』という、文化人類学者の大先輩であるクロード・レヴィ=ストロース論を刊行していますが、その自著に触れて、東京外大の教え子であり、現在はピアニスト兼指揮者として音楽の現場で活躍している内藤晃さんとのコーナーです。ふたりのトークに加えて、内藤さんのピアノ独奏、おお、ちゃんとグランドピアノまで用意しましたね。

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 会場に入ろうとしたときに、かなりの分量のある今福氏インタビュー集の冊子を頂戴しましたが、これを作ったのが、外大の教え子である高橋由佳さんです。プロフィールを見ると、なんでも大学を一年間休学して、バリ島で民俗舞踊のダンサーをしていた、とか。今年には無事卒業のよしですが、たいした行動力です。その高橋さんがダンスを披露してくれました。このダンスは良かった。

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 続いて、龍太氏も参加した朗読劇です。アメリカはウォールデンの丸太小屋に住んだ思想家ヘンリー・ソローに龍太氏はかねてから関心があったよし、モノグラフも書いてますが、そのソローが主人公のお芝居があるそうですね。それを四人で朗読劇にしました。随所に笑いが起こりましたね。

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 なんとも盛沢山の舞台です。次は、龍太氏の著書『ハーフ・ブリード』に絡めて、この本をたいそう気に入ったという作家の赤坂真理さんがゲストで登場、即興?で恋の歌を語りかける、といった雰囲気でふたりの掛け合いがありました。撮影した画像、むやみにボケてしまいましたが、ステージの妖しい熱気にあてられましたか(笑)。

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 いよいよエンディング、アメリカ・インディアンのジェロニモに扮した?龍太氏がメッセージを朗読しておしまいでした。東京外大に15年いた間に、ずいぶんとたくさん著書を出していますね。面白い、ユニークな退官記念イベントとなったと思います。終了後はラウンジでワインパーティー。自粛ムードに抗して?皆さんとわいわい賑やかで愉しかったです。龍太さんとの記念スナップを撮ってもらいました。(コロナ対策でグレーのマスクをしてました。)

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 さて次は25日(水)の横浜は中華街にもほど近い、神奈川芸術劇場でした。冒頭に紹介した、「笠井叡DUOの會」シリーズの一環として、笠井叡さんが大野一雄さんとのデュオダンスを採りあげて、それに新たに振り付けた舞台のゲネプロを鑑賞しました。1963年の『犠儀』、
1972年の『丘の麓』、そして2002年の『病める舞姫』です。大野さんが踊ったパートをダムタイプ出身のダンサーの川口隆夫さんが、叡さんのパートを叡さんの三男であるダンサーの瑞丈(みつたけ)さんが踊ります。はい、三人の3Sをどうぞ。

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 大ホールの会場への入り口には、大野さんのソロ公演のポスターや衣装、また中西夏之さんがデザインした公演ポスターなどが展示されていました。これらは舞踏史の貴重な遺産です。

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 会場の大ホール、コンテンポラリーダンス関係の知友らが何人も見えていました。おや、客席のやや上手寄りの最前列に座るのは笠井叡さんご本人です。出演されるのじゃないのかな、といぶかしく思ったのですが、舞台が開いて、了解しました。つまり川口氏と瑞丈さんのデュオダンスが終わると、客席から笠井さんが舞台に登場されて、解説されます。話ながら、ダンスをするので、「特別出演」というわけでしょう(笑)。そして実際に、それらの出し物を大野一雄さんと踊ったときのエピソードなども披露されます。ご本人、「狂言回しです」ということですが。

 舞台の画像、追って入手できれば、紹介していきます。昔の舞台を撮ったモノクロフィルムと、『病め舞姫』はヴィデオ画像です、それらがバックに投影されますが、今回のリメイク版、振付を微妙に変えていますね。そのズレも面白かったです。

川口隆夫 大野一雄を踊る.jpg笠井瑞丈.jpg笠井叡 自宅にて.jpg

 客席から舞台を鑑賞しながら、配役を変えて、叡さんを瑞丈さんが踊るとしても、大野さんのパートを叡さんご自身が踊ったらどうだったろうか、とふと思いました。大野一雄さん、2010年に103歳でなくなって、もう10年ですか。晩年は車椅子で舞台に出てられましたが、それでもあの腕のダンス!とても訴えるものがありました。

 そして休憩を挟んでの後半は、この一月に亡くなった大野一雄さんの息子さんでダンサーだった慶人(よしと)さんの霊に捧げます、として叡さんが振り付けたダンス作品『笠井叡の大野一雄』を川口氏と瑞丈さんがデュオで踊りました。満員の観客のなかで舞台を観たら、また印象もぐっと変わるでしょうね。本公演、29日(日)までやっています。外出自粛要請、などが出ましたが、なあにそこはマスクをして、どうぞヨコハマまでお運びください。

 お別れの引用句、本公演の笠井さんの言葉から、としましょう。

「笠井叡のカラダの半分には、大野一雄氏によって作られた身体性が厳然として存在している。」

                              (笠井 叡)

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