林浩平の《饒舌三昧》

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zoom RSS 国立新美のジャコメッティ展、見応え充分でした。我が家のジャコメッティもどうぞ

<<   作成日時 : 2017/08/14 21:58   >>

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 風狂の 風へとひらく うすごろも      (小津 夜景)

 モダンな夏の句です。これを収めた句集『フラワーズ・カンフー』が第8回田中裕明賞を受賞しました。フランスはニースにお住まいの小津さんとは、ブログのこのコーナーで句を紹介したのをきっかけでメールの交換が何度かあったので、改めて「おめでとうございます」です(笑)。「ふらんす堂通信」に載った受賞の言葉のなかで、「光と音との接触」として句作りを捉えているあって、なるほど納得です。もう一句、「夏はあるかつてあったといふごとく」。

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 国立新美術館ではすでに6月からですが、アルベルト・ジャコメッティ(1901〜1966)の大規模な回顧展が開催されています。夏休みに入ってからゆっくりと、と思っているうちに、9月4日のクロージングが近くなりました。これは早く行かなければ。気合を入れて鑑賞に向かいました。作品、図録を接写して紹介します。

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順に、「キュビスム的コンポジション―男」(1926年)、素材は石膏に着色、そして「カップル」(1926/27年)、三つ目はちょっと時代が下っての「鼻」(1947年)です。1922年にパリに出たジャコメッティは、彫刻家のブールデルのもとで彫刻を学びます。こうした初期の作には、当時勃興したキュビスムの影響がありますね。またブルトンらシュルレアリストらとも交わりを持ったよし、アフリカの土俗的な造形から刺激を受けたのもよくわかります。

 「鼻」、これは面白い作ですが、所蔵が「大阪新美術館建設準備室」とのこと、この美術館、ずっと「建設準備」中ですが、いったいいつオープンするのやら。開館したら、この作もお馴染みになるでしょう。

 今回の展示は16のテーマにほぼ時代順に分けていますが、なかなか見易いですね。4番めに「群像」、ここの展示は素晴らしかった、さあ一作の前に10分以上は佇んで凝視を続けたでしょう。

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 作品タイトル、3番目のものなどは「森、広場、7人の人物とひとつの頭部」と即物的ですが、1950年ごろに集中的に制作されたこれらのシリーズは発見でした。ジャコメッティは、「未知のものは、私の周囲の現実だった」というので、街路をゆく無名の群衆を見つめてスケッチを試みたといいます。図録解説によると、こうした都市空間の風景のなかに、幼年期に親しんだスイスのスタンパの村の自然を見出した、と分析しますが、なるほどね。細長い人物のフィギュア―の群れに故郷の森を見た、というのは頷けるように思います。ジャコメッティの場合は、その造形世界の奥につねに自然の問題が絡むでしょうね。そこあたりは、若林奮さんの世界にも共通します。

 
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 弟のディエゴの彫像もいくつも出ています。最初の正面向きの像は、豊田市美が所蔵します。顔はさすがに本人によく似ています、それから今回の図録の表紙を飾った「犬」、それに愛嬌のある超細身の「猫」もいいですね。

 人物像といえば、哲学者の矢内原伊作がモデルをつとめたことはよく知られますが、今回は立体はなく、ボールペンと青インクの素描と紙ナプキンや手元の新聞などにスケッチしたものが展示されています。へえ、これら「旧矢内原伊作コレクション」、現在は神奈川近美が所蔵しているのですね。

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 13番目のセクションは「ヴェネツィアの女」と題されてます。1956年のヴェネツィア・ビエンナーレに出品した、一連の女性立像です。いずれも1メートルほどの高さ、それが一堂に会したのですから、さすがに壮観ですね。画像は、ネット上に出たものです。今回の展示の風景です。

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 今回の展示で、カメラ撮影が許可されたセクションがひとつだけありました。ニューヨークのチェース・マンハッタン銀行の広場のためのプロジェクトで、野外彫刻を三体、「頭部」、「女性立像」、「歩く男」の制作を試みたのでした。これは1958年のこと。結局、そのプロジェクト自体には完成が間に合わなかったそうですが、大きな三体が残されます。それらは撮影が許可されてますから、皆さん、スマホなどをとりだして撮影会でしたね。

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「ジャコメッティと同時代の詩人たち」というセクションもありました。サルトルやジャン・ジュネとの交友はよく知られていますが、1967年に創刊されたフランスの現代詩の同人誌「レフェメール(蜉蝣)」に参加したアンドレ・デュブーシェやジャック・デュパン、ミッシェル・レリスらとも、ジャコメッティはごく近い精神圏に生きたといえるでしょう。特に文化人類学者として知られるレリスは、同じ年の生れで、ジャコメッティについて初めて評論文を綴り、死去の際には懇切な追悼文を書いた「伴走者」でした。以下順に、デュブーシェの『うつろな熱さのなかで』、デュパンの『ハイタカ』、レリスの『生ける灰、名もないまま』それぞれの挿絵です。

 会場には参考展示として「レフェメール」創刊号も展示されていましたが、その表紙には前年に亡くなったジャコメッティのドローイングが使われていましたね。その図版も図録に採録して欲しかった。「レフェメール」、他の同人にはイヴ・ボヌフォアもいますし、あのパウル・ツェランも寄稿してました。おおいに気になる詩誌です。

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 とにかく見応えのある企画展です。もう一度鑑賞に行ってもいいくらいです。ジャコメッティの作品をまとめて鑑賞するのは、あれは1997年でした、軽井沢のメルシャン美術館であった「バルテュスとジャコメッティ」展以来ですから、20年ぶりですか。

 ジャコメッティ、ずっと心惹かれ続けている作家ですが、実は我が家にも一点、ジャコメッティがあるのですね(笑)。いやこのブログではすでに画像で紹介していますが、その時とは掛けてある場所が変わりました。いまはちょっと窮屈な狭い廊下です。申し訳ありませんが(笑)。エッチングの精巧な模造作品です。いや、佳いのですよ、またお値段も結構したよし。これは小生らの結婚を祝ってくれて、当時はNHKディレクター時代、先輩の国広和孝さんと陽子さんご夫妻から贈っていただいたものです。

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 お別れの引用句、架蔵の宇佐見英治『見る人――ジャコメッティと矢内原』(みすず書房)のエッセイを読んでいたら見つけました。矢内原伊作の詩の一節です。そう、思潮社から『矢内原詩集』が1994年に刊行されているのですね。これは手に入れておきましょう。

「茜色に染まった海のむこうの
 天使の遊び場は眼に見えない
 遊びにくるのは
 仲間はずれの雲ばかり」
                                  (矢内原 伊作    「夕焼け」)

 おまけ、です。先日もPRしましたが、9月2日(土)の14時から、富山県立高志(こし)の国文学館で、「詩人瀧口修造を読む」と題して講演をいたします。これは、その一週間前にオープンする富山県美術館との「開館記念連携企画」ですので、美術館のHPにも案内が出ました。なんとも面映ゆいですが、どうぞご覧ください。

  http://tad-toyama.jp/exhibition-event/2083

富山市、北陸新幹線で東京駅から2時間少々、うんと近くなりましたが、やはりいささか遠方でしょうか(笑)。金沢ご在住のかたなら、ぜひどうぞ、です。

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