林浩平の《饒舌三昧》

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zoom RSS 大里俊晴さんの追悼イベントに出ました+1月30日には「折口信夫会」が開催されます

<<   作成日時 : 2010/01/11 02:19   >>

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 昼の闇得し猫の眼と冬ごもり    (中村 草田男)

 草田男さん、寒い冬の午後をネコを膝にでも置いて読書にいそしんでいるのでしょうか。時々うっすらとネコが眼を開けます。ネコの瞳は部屋の暗がりが投影されてか、大きく見開かれているみたい。草田男の鋭敏な観察眼はネコの瞳の様子も的確に捉えました。

 音楽学が専門で前衛音楽、ジャズ、ロックなど広い範囲をカバーする音楽批評家でもあった大里俊晴さんが昨年の11月17日に51歳の若さで逝去されました。彼が所属した横浜国立大学の「北仲スクール」(横浜文化創造都市スクール)では大里氏を追悼するためのイベントを企画、みなとみらい線の馬車道駅にある施設で開催されたので、大里さんとはいささかのご縁のあった小生ですが、お弔いの式には出られなかったためお別れをしてこようと出かけてきました。音楽関係のかたがたで暫くご無沙汰していた皆さんともお目にかかれて、在りし日の大里さんを偲びました。著作をまとめる前に帰らぬひととなったためその音楽論は雑誌発表のままですが、展示された「ユリイカ」のバックナンバーではジョン・ゾーン特集やはっぴいえんど特集に執筆してましたね。パリ大学の大学院で学んだ経験もあるので、フランスの現代音楽家リュック・フェラーリの来日の際にはおおいに働かれたようです。それから彼の郷里新潟の先輩でもあった音楽批評家の間章氏は78年に32歳で亡くなっていますが、前衛ジャズ音楽論の先駆者でもあった間氏のドキュメンタリー映画「AA」を青山真治監督が撮った際に大里さんがインタビュワーで出演していましたね。浅田彰氏がデビューするまで「AA」といえば「アイダ・アキラ」でした。

 追悼イベントは先ず大学での同僚であった室井尚さんと梅本洋一さんらが大里さんの人となりや色んなエピソードについて語り合います。代々木にある元ヤクザのオフィスだかといういわくつきのマンションに住んでるということはご本人から聞いたことがありましたが、大里さんといえば大きな体にいつも黒づくめの恰好で黒いサングラス、授業で使うからというのでLPレコードを布バッグに何枚も詰めた重い荷物も苦にもせず、そんなところもトレードマークでしたが、シャイで純粋なキャラクターが親しかった皆さんの回想からも甦ります。続いてはゲストとして京都からやってきた細川周平氏が室井さんとのトークで大里さんとの長い交友を語ります。周平氏、友人を思う篤い気持ちがコメントの随所から伝わりますが、イベントが始まる前に当方のところにやってきて、「吉増さんと灰野さんのステージで大里と一緒だったんだろ。そのこと、ちょっとコメントしてくれない?」と要請がありました。さてお呼びがかかって僕ものこのこと前に出て行きます。それは2004年の11月のこと。早稲田の小講堂で詩人の吉増剛造さんと音楽家の灰野敬二さんがセッションをしたのですが、それは見事な昂揚感に貫かれた、今では伝説的なといっていいステージでした。僕はその舞台評を「図書新聞」に書いて今は拙著の吉増論に収めています。そのウチアゲで吉増さん灰野さんを囲んだ時に僕の隣にいたのが大里さんでしたね。大里さん、舞台のバイブレーションを酒席にまで運んでいたようでしたが。

 大里さんは以前には「ガセネタ」などのバンドで演奏活動をしていたそうですが、トークの後には彼の演奏動画が紹介されます。一昨年に郷里の新潟で「間章に捧げる即興演奏」というパフォーマンスを行い今ではそれがヴィデオ作品となったのですね。エレキギターに5つも6つもイフェクターをつないで、ジミ・ヘンドリックスかデレク・ベイリーかといったノイズサウンドをギンギンに奏でます。アナーキーなフリーミュージックですね。きっとこうした演奏をしている時こそが彼が最も解放感を味わう時間なのでしょう。トークでもちらと言いましたが、大里さんの精神と生き方のモットーは評論家とか大学教師というより、アヴァンギャルドなミュージシャンでしたね。さて第一部の終了後は、場所をレンガ作りの北仲スクールの校舎に移してワインやビールを片手に、皆さんと大里さんの思い出を語りあいました。そして耳寄りな「追悼ライブ」のことを知ります。来たる4月1日(木)の夜、六本木スーパーデラックスという店で、「大里俊晴に捧ぐ」というライブが開かれるよし。出演が、灰野敬二さん、竹田賢一さん、そして中原昌也さんにジム・オルーク氏のコンビの「Suicidal10cc」という豪華ラインナップです。この日はちょうど勤務先の大学の入学式ですが、まあ夕方には解放されるでしょう。スーツにネクタイ姿を黒づくめのラフな恰好に着替えて六本木を目指しましょうか。

 ここでひとつお知らせです。折口信夫のことに関心を持つひとたちで「折口信夫会」が運営されています。その第八回めの催しが今月30日(土)の14時から、東京理科大学森戸記念館の第一フォーラムで開かれます。この会場、JR飯田橋駅から神楽坂を登っていくと左手に毘沙門天がありますが、その向かい側の路地の突き当たりとか。わかりやすいですね。今回は「折口信夫の南島論」がテーマで、岡野弘彦氏のお話しと安藤礼二氏の発表がメインです。それからオマケですが、会の運営担当の歌人の成瀬有さんからご依頼を受けて、小生が拙著『折口信夫 霊性の思索者』(平凡社新書)の「成り立ち」について、ということで少時お話しをすることになりました。拙著で主題としながらもまだまだ探求の足りなかったプネウマと霊魂の問題などをもうちょっと掘り下げてお話しできたらな、などと考えています。それからこれはまあ営業活動でもあるのでしょう(笑)。いや、話をお聴きくださるかたにはぜひ拙著をご覧いただきたいわけですからね。この会、参加費はなく、参加申し込みも不要です。どうぞお気軽にいらしてください。毎回50名くらいの参加者を数えるようですが。

 お別れの引用句です。霊性の問題といえば、イスラーム思想史の大碩学としてこのかたがおられたことを忘れてはいけません。井筒俊彦さんです。井筒さんも東洋哲学と西洋哲学ふたつの世界をしっかり睨んだうえで、霊性の問題を深く考察されました。井筒さん、ここでは「神秘主義」について問題点を平易に語っておられます。

「まず私は神秘主義の顕著な、そして決定的に重要な特徴の一つとしていわゆる現実、あるいはリアリティーの多層的構造ということを考えてみたいと思います。現実、リアリティー、すなわち存在世界が多層的構造であるという意味は、文字通りそれらが一重ではないということ、われわれがふつう現実と呼びかつそう考えている経験的世界は、実は現実、あるいは存在の外側、表側あるいは表層であるにすぎないのであって、その下にいくつもの層が重なって垂直的方向に広がって、存在領域の多層的構造をなしている、とそう考えます。」
                                              (井筒 俊彦  『超越のことば』)

 

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大里俊晴さんの御冥福を祈ります。面識はありませんが……たぶん7〜8年前に伝説的な前衛ポップバンド「スラップ・ハッピー」の再結成&来日公演の会場(吉祥寺・シルバーパインズカフェ)でお見掛けしたと思います。スタジオボイス97年8月号「永遠の名盤」にはオールタイムベスト10を紹介されていました。一部抜粋すると……阿部薫「なしくずしの死」▽イアニス・クセナキス「ペルセポリス」▽ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「サード」▽ティム・バックレー「ハッピー・サッド」▽パティ・ウォーターズ「シングズ」……フリーやアシッドサイケの名盤オンパレードで実に壮観ですね。間章や大里さん竹田賢一さん……こういった方々がお書きになる尖鋭なロック批評に若いころ何度蒙を啓かれたことでしょう。本当に淋しくなります。
おやくすみん
2010/01/11 13:20
「おやくすみん」さま、昔の「スタジオボイス」誌の「ベスト10」アンケートでの大里さんの回答まで引いてくださってのフォロー、ありがとうございます。阿部薫からV・アンダーグラウンドまで、「なるほど」というラインナップですね。アシッドとかフリーミュージック系あたり、ここいらは小生の音楽趣味とはかなり異なる次第ですが(当方はもっと単純なエイトビートのブルースハードロック礼讃者です(笑))、ひとつの「カルチャー」を代弁するでしょう。
ミニヨン
2010/01/12 09:11
ちなみにそれ以外は……アントナン・アルトー▽コレット・マニー▽ジャックス▽ブルー・チアーなどのアルバムが続き最後は「空席」。9枚しか挙げていません。時間が許せばスーパーデラックスでの追悼ライブにも行きたいですね。ここに行くとすれば一昨年3月にチェルフィッチュを観て以来だな。
おやくすみん
2010/01/12 11:43

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