林浩平の《饒舌三昧》

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zoom RSS 愛媛県の久万美術館、開館30周年の企画展を観てきました。佳品ぞろいです。

<<   作成日時 : 2018/09/15 17:07   >>

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 ともし火に したしみそめて 獺祭忌    (阿波野 青畝)

 獺祭忌(だっさいき)は、正岡子規の命日を表わす季語です。子規は、明治35年の9月19日に34歳の若さで亡くなりました。(糸瓜忌、とも言いますね。)カワウソが捕った魚を河原にばらまくように、俳書をたくさん身辺に置いて俳句分類の仕事を続けた子規が、自分の号を獺祭書屋主人としたところに由来します。9月19日、確かに例年ならこのころから空気もひんやりしだして、灯火親しむ候、となるのですが、猛暑だった今年はどうでしょうか。ただ9月15日の今日の東京は、冷たい霖雨が降り続き、秋近し、の感じです。

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 愛媛県は松山市のお隣にある久万高原町の町立久万(くま)美術館、毎年9月初旬には企画展がオープンですので、僕も毎年律儀に参加しては、このブログでレポートを続けています。今年の企画は、「久万美いま30th」というわけで、美術館の開館30周年を記念した展示です。

 久万高原町はその名の通り、松山と高知を結ぶ街道の通る、高原の町で、主な産業が林業です。この地に植林のノウハウを伝えて、林業家として成功し財をなした井部栄治氏は美術が趣味。松山市出身の美術評論家で画廊オーナーだった洲之内徹のアドバイスを得て、近代美術の絵画を中心に作品を購入して形成された井部コレクション、これが洲之内徹の眼が生きたからでしょう、実に佳品ぞろいの良いものなのですね。その井部氏が町に300余点のコレクションを寄贈したところから、ちょうど30年前の1988年に久万美術館がオープンしました。

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 美術館の建物自体、木を材料に作られています。ただ、エントランスへの石段の右脇には、松山在住の彫刻家・森堯茂さんの鉄製のモニュメントが建っていて、これは現代美術も積極的に視野に収めようというこの美術館のシンボルでもありますね。森先生とは僕もNHK松山時代からですので、40年のお付き合い、わが家に森作品の鉄のオブジェが二点ありますが、残念ながら森先生、去年の11月に95歳で亡くなりました。このブログでもお伝えした通りです。

 さて今回の企画展、会期をふたつに分けていて、前半は井部コレクションから10月いっぱい、後半は、30年の間に久万美で開催した企画展に出展した作家の作品600点ほどからセレクトした久万コレクションで、11月と12月の展示です。今年のオープニングは9月8日で、洲之内徹の息子さんで美術評論家の原田光さんの記念講演があり、原田さんとも久しぶりです、僕もうかがいたかったのですが、ブログの前回の記事で伝えたように、松濤美術館での吉増さん展で岡野弘彦先生とのトークがあったので、この日の久万訪問が出来ず。13日に行ってきました。

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 久万美術館、松山市内からは車で40分ほどですが、市内からのJRバスの本数が以前に比べてうんと少なくなってしまったため、車がないとアクセスがちょっと厄介です。僕は高木館長じきじきにお迎えいただき、館に到着しました。さっそく展示を鑑賞します。

 まず目に留まるのは、村山槐多です。「裸婦」と「芍薬」、井部コレクションでも目玉の作でしょう。そして萬鉄五郎の「裸体美人(習作)」。大きな画面の実作?のほうは、竹橋の東京近美の目玉のひとつですね。

 井部コレクションの主な作は、これまでにも観る機会はあったのですが、今回、ちょっと「発見」という具合にその魅力を実感したのは、吉岡憲の「裸婦」、そして佐藤哲三の「みぞれ」の二点でしたね。これはいい。また小泉清、あの小泉八雲の息子で、ドラマティックな生涯を送ったこともあり以前から気になっている画家の「山」も出展されていました。独特の油絵具の厚塗りスタイル、凄みがあります。

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次の二点は、長谷川利行の「のあのあ」、そして林倭衛(しずえ)の「初夏の郊外」です。長谷川利行展、先日は府中市美術館で開催されていましたが、行こう行こうと思っている間に会期が終了してしまった。残念。「初夏の郊外」、おやこれは井部コレクションではなく、下関市立美術館からの借用ですが、そう他にも別の美術館の収蔵作品が何点か展示されています。林倭衛といえば、アナーキストの大杉栄のポルトレが有名ですね。そして娘さんの林聖子さんというかたが、新宿に「風紋」という文壇バーを経営していたのもよく知られています。しかし「風紋」、ママが高齢になったために先日お店を閉じたとも聞きました。「風紋」、僕はとうとう訪ねる機会はなく、新宿の文壇バーといえば「風花」のほうへは時おり通っていて、こないだはウィスキーのボトルを新しくしました(笑)。高木館長を今度お連れせねば、です。

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 井部コレクション、明治期の近代画家の重鎮クラスのもけっこう収められています。高橋由一の「真崎の渡」、小山正太郎の「風景小点」、下村為山の「梅のある風景」、これらを順にどうぞ。

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 色々と紹介したい絵がありますが、一日のグレードアップできる画像数に制限があります。〆は、関西美術院の立役者ふたりの作としましょう。浅井忠の「朝陽(飛騨高山)」、そして鹿子木孟郎(かのこぎ・たけしろう)の「婦人像」です。浅井忠はファンをもって任じていますので、数年前に郷里の佐倉市立美術館であった回顧展も観に行って、エッセイを書きました。同じく浅井忠のファンである杉本秀太郎さんにそのエッセイのコピーをお送りしたのですが、しばらくして秀太郎さんの訃報に接しました。面識はないままだったのは残念です。それはともかく、この「朝陽」、その際に佐倉でも展示されていましたね。「久万美術館所蔵」とあるのを見て、なんとなく誇らしくなったのを覚えています(笑)。

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 じっくりと時間をかけて鑑賞しました。さて館長室に戻ろうとしてふと気が付くと、フロアの隅に、亡き森堯茂先生の彫刻作品が2点置かれています。2007年の秋にはここで、「造形思考の軌跡 森堯茂 彫刻の70年」展があって、僕もお手伝いをした次第ですが、この展示は美術館からの森先生追悼、の意思表示でしょうね。ご覧ください。

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 お別れの引用句、森先生とも親しかった洲之内徹が、村山槐多について綴った文章から引きましょう。例の『気まぐれ美術館』のシリーズです。

「今に始まったことでなく、大袈裟にいえば物心ついて以来、槐多は私の最も好きな画家の一人だが、なぜ好きかは、必ずしも自分にわかっていたわけではない。問われても答えられなかった。ただ、何だかしらないが槐多は凄いなと思うのである。」

                   (洲之内 徹   「村山槐多ノート」 『セザンヌの塗り残し』より)

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